今月のお題に「鯉のぼり」とあったが、近ごろ、鯉のぼりを上げているお宅を見たことがない。広い庭を持つ地方の家なら端午の節句に鯉のぼりを上げて祝うことがあるかもしれない。・・・頭に浮かんだのは歌川広重の安政4年(1857)の作「名所江戸百景 水道橋駿河台」だった。画面の中央に黒い真鯉が大きく空にうねっている大胆な構図の錦絵だ。短歌は別に真実を読まなくてもいいそうだ。かといって実感のわかない事象にはいい言葉が浮かんでは来ない。江戸時代大好きの私は神田駿河台あたりに行くと昔はどんな風だったのかしら、あの神田山は埋立地造成のために削られている途中でもう少し大きかったかも…などとお茶の水駅のホームから目の前の病院を眺めていたりした。井の頭公園から引かれた神田上水が枝分かれする「水道橋」跡を必死で探したりもした。
この広重の絵にはまさにその水道橋が描かれている。大きな鯉のぼりに隠れて目立たないけれど、名所の名前は「水道橋駿河台」だ。次回、お茶の水駅のホームに立った時、私の頭の中には現代の風景の中にこの絵が重なっているだろうな。
「広重の絵の中泳ぐ鯉のぼり駅のホームで江戸をおもほゆ」
0コメント